競馬 想い出の歴史

競馬といえば、武豊

強かった ~オークス回想~

 強かった。圧勝だった。レースレコード2分23秒8。三冠馬。それは確実に見えてきた。前回とはうって変わり、後方からではなく、中団より前目でラッキーライラックをマークしていた。このオークスという年に一度、馬にとって一生に一度の大舞台において、桜花賞を制した追い込みではなく、先行したのは奇策にも見えた。敗ければ批判も免れない。そして、この日の彼女であれば、恐らく最後方から競馬をしたとしても、敗けることはなかっただろう。だが、クリストフは先行策を採った。勝利騎手インタビューで本人が語っていた様に“採った”というよりは、“邪魔をしなかった”という方が正しいのかもしれない。兎も角、好スタートを切り、自ら前行ったアーモンドアイを下げることはしなかった。馬のリズムを優先し、ラッキーライラックのすぐ後ろでマークする形でポジションを取り、内に馬一頭分のスペースを空け、折り合った。この時点で、アーモンドアイの勝利はほぼ確実なものになった。譬え、追い出しが遅れ様とアーモンドアイである。差し切れる。疑う余地はない。そして直線に入ると、当然の様に一気に差し切った。強かった。兎に角、強かった。三冠へ。あと一つ。最後の一冠。夏を越え、他馬も成長する。夏の上がり馬も挑む。だから、最も難しい一冠となる。そこでは、成長し充実期を迎えたラッキーライラック、リリーノーブル、マウレアが立ちはだかるかもしれない。未だ見ぬ敵が立ちはだかるかもしれない。何れにせよ、あと一冠。Triple Crownへの5ヶ月間の調整という孤独な、過酷な戦いは始まったばかり。未だ何が起こるか分からない。分からない。だが、最終決戦へと、ただ一頭、三冠馬を賭け、そこに向かって歩んでいることだけは、確か。三冠馬。それが漸く、判然(はっきり)と見えてきた。オークスは、強かった。前にも増して、強かった。最後の一冠。秋華賞。戦いは、もう、はじまった。